● 老年心療内科のミニ勉強会
第9回 「レビー小体型認知症について」
皆さんはこの病気の名前をご存知でしょうか? あまり聞いたことがない人も多いと思います。なぜなら、完全に診断しようとすると、死んだあと脳解剖しなければならないからです。
簡単に言うと、レビー小体という、異常細胞が、脳のある場所だけに出てくると、パーキンソン病といわれる病気になるのですが、それだけでは痴呆は起きないといわれています。しかし、そのレビー小体が、脳全体に出現し、幻視、痴呆症状、パーキンソニズム(パーキンソン病のような歩行)が出てくるとこの病気を疑います。
ここまでは、専門家であれば誰でも専門書等で知っていることですが、実際にはこの3つが揃ってないときも多く、精神科ではうつ病と診断されたり、神経内科ではパーキンソンといわれたりして、なかなか治療がうまくいかなかったりします。
なぜこの病気が最近クローズアップされているかというと、1つは、いろいろな研究から、実はこの病気は以前いわれていたより多くの方がかかっていたことがわかってきたからです。全ての痴呆の40%を占めるなどという発表もあったほどで、アルツハイマー型認知症と同等か、或はそれ以上の可能性もある数字です。
2つ目にはアリセプトという薬の発売です。この薬は、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせるということで発売されましたが、実はこの薬はアルツハイマーよりもレビー小体型認知症(以下、レビーと略させていただきます)に効果があるとさえいわれているのです。
では、痴呆があり、脳以外でその原因がなく、脳血管性の障害がなければ、アルツハイマーか、レビーだろうから、アリセプトを出しておけば間違いないということですね、といわれる方がいるかもしれません。その考えもあながち間違いではありませんが、一つ注意しなければならないことがあります。それは、レビーの特徴の一つに、薬剤にとても強い過敏性を示す(薬に異常に弱いということです)というものがあることを知っていなければなりません。
ですから、厚生省もアリセプト認可の際、「1日3ミリで1-2週間、その後5ミリに上げ最大量とする」としましたが、これでは多くのレビーの方には多すぎて効果どころか逆に強すぎるための副作用が出る方もいると思います。
それで、「なんだ、レビーにはアリセプトがよく効くというから投与してみたが、とんでもないことになった。もうレビーにアリセプトは使わない」という医師もみえるでしょうが、それだけであきらめてしまうのはもったいないと思います。
当院でも最近大きな病院からの転医患者さんが増えています。他のところで良くならないから来ましたという患者さんの中には、最近レビーの方が増えています。そういった方の何割かは上記の知識を持って治療すれば、劇的によくなったり、認知症状の進行をかなりの間、防いでくれたりします。
そういったとき家族の方の中には、すごい名医にあったかのように驚いてくださいますが、種をあかせばたったこれだけのことなんです。わずかの知識とあきらめない治療意欲、それだけで結果が大きく違うことも時にはあるようです。
注:最近、三重大学病院の同門の方も、このHPを見てくれている人が何人かみえると聞いたので、今回は少しだけ医師が読んでもちょっとは意味のあるように、アカデミックにしてみました。あしからず。
2006年1月31日
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